旅路の果てに 第6章−1


 ルークが抱きしめていた腕を緩めた。リエナの白い頬に手を掛けて顔を見る。その瞬間、ルークは愕然とした。

 二年振りに見るリエナは心労にやつれ、華奢な身体は更にひとまわり痩せていた。

「リエナ、お前……」

 ルークはリエナのあまりの変わりように続く言葉を失っていた。離れ離れの間、どれほどの苦労を重ねてきたのかありありとわかるほどの変化だったのである。けれど、決して彼女の美しさを損なうことはない。むしろよりいっそう、凄絶なまでの美しさを放っていた。

 ルークを見上げるリエナは、涙を流し続けている。

――そこに浮かぶのは、諦念ともいうべき、微笑み。

 絶望の淵に立たされ、それでも愛する人を信じ続けた。たった今、その想いが報われたのだ。

 頬を包む大きな手に、ちいさな白い手がかかる。握り返してくる手はその力すらも弱々しい。

――俺がもっと早くに出奔を決意していれば、ここまでつらい思いをさせることはなかった。

 湧き上がる後悔と自責の念に駆られ、ルークは再びリエナを抱きしめた。

――二度と離さない。この先、どんなことが起こってもリエナを守る。

 抱きしめるルークの腕に力が籠る。リエナはただ、先程と同じ微笑みを浮かべるのみだった。これでもう何も思い残すことはないのだから。



********



desafinadoの蛍さまより、素晴らしいイラストを頂戴しました!
連載中の長編 『旅路の果てに 第6章 1』のルークとリエナ再会シーンのイラストです。

Twitterでイラストを拝見した瞬間、息が止まりそうになりました。
連載の中でも特に思い入れの強いシーンです。

蛍さまが作品へのリプで「小説のシーンそのものじゃなくて、一回抱きしめたあとに改めて顔を見たって感じです。」とあって、あれ?そういうシーン書いたはずだけどって思ったんですよ。
で、確認したら確かに第一稿にはあるのに、決定稿ではカットしていました。何でこんな阿呆なことをしたのか今では記憶のかなたにいってしまいましたので、もうこれは書くしかない!と第一稿のシーンを加筆修正したものを添えさせていただいています。

同時に、なんで書いてないのにわかるの……。蛍さますごすぎる!と驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。

二人の表情の対比がすごいです。
やつれ果てたリエナを見て愕然とするルーク。同時に、湧き上がる怒り――リエナをここまで追い込んだチャールズ卿に対するものと、今まで救いに来れなかった自分へ対するもの――がないまぜになった表情だと感じました。
ルークは後悔してますけど、これってものすごく珍しいんです。基本、自分の行動は考えた上で行ったものなので結果がどうあれ、済んだことをくよくよ考えるのは性に合わないんです。そんな暇があるなら今後の打開策を考えるべき、それがルークです。

もっとも今回ばかりは仕方ないでしょう。ルークも自分の置かれた立場の中でできうる限りの行動を起こした結果ですから。それでも、やつれたリエナを目の当たりにしてしまえば、どれだけ苦労したかがわかります。
後悔よりも、自分で自分が許せない、自責の念の方が強いのかもしれません。

対するリエナは、とても穏やかなんですよ。絶望の淵に立たされ、あと自分に残された使命はムーンブルク女王として恥ずかしくない最期を遂げるのみと覚悟を決めています。ただ一つの望みは、ルークにもう一度だけ抱きしめてもらうこと。それがかなったのですから、何も思い残すことないんですよね。今はただただ、自分の目の前にいるルークを感じて、この幸せを記憶にとどめておきたい、それだけなんだと思うんです。

今回お話をつけさせていただくにあたって6章−1を読み返していて、やっぱりうちの二人は最後まですれ違っているなって再確認しました。

ルークは出奔=これからが新たな始まり、リエナはもう思い残すことはない=死を覚悟、ですからね。

お話に書かれていない部分をここまで素晴らしいイラスト作品にしてくださった蛍さま、本当にありがとうございました!

2017.3.14 追記
上記で添えさせていただいた文章を、6章−1に追加しました。


戻る