新たなる誓い
三人はここ数日、雪深い山間の道を旅していた。日暮れにはまだ早めの時間だったが、偶然にみつけた洞窟を今夜の宿と決めた。これで厳しい寒さをかなり凌ぐことができる。
数日前にも、同じことを考えた旅人がいたらしい。ありがたいことに、洞窟の中には幾ばくかの薪が残されていた。
早速火を熾し、外に積もっている雪を溶かして湯を沸かす。残っている材料で、リエナがスープを作った。リエナから熱いスープを満たした椀を受け取ったルークは、一口すするとしみじみとつぶやいた。
「生き返るな」
「本当にね。今夜みたいな夜には、特にありがたい」
アーサーも安堵の息をついた。リエナも、両手で包み込むようにスープの椀を持った。じんわりとした熱さが、冷え切った指先に心地よかった。
「ねえ、確か今夜は大晦日、よね」
リエナがふと気づいたように、仲間二人を見つめた。
「そういえば、そうだね」
「すっかり忘れてたぜ」
長い間、厳しい旅を続けていた彼らにとっては、一年が終わる、ということすら、遠い世界の出来事のように感じていた。
「来年こそは、目的を達成したいよな」
「ええ、早く決着をつけてしまいたいわ」
ルークの視線を受けて、リエナは決意を秘めた眼で頷いた。
彼らの旅が始まって、一年半近くが経っていた。今は各地を巡り、紋章を探し求めている。旅は日毎に困難を極め、死と隣り合わせの毎日を送っていた。それでも、三人は決して諦める気はない。
熱いスープを飲み干すと、リエナが眠り、男二人は交替で火の番にあたる。
洞窟の外は、漆黒の闇である。今夜は月もなく、昨日まで降り続いていた雪も止み、風すらほとんどない。恐ろしいほどの静寂の中、焚火の灯りとぱちぱちと薪がはぜる音だけが、洞窟内を満たしていた。
***
リエナはふと眼をさました。決して悪夢にうなされたわけではない。身体はまだ疲れがすこし残っているが、気分は爽快である。ゆっくりと身体を起こすと、火の番のために起きているルークと視線が合った。
「どうした? 眠れないか?」
「ううん、大丈夫。不思議と気分はいいのよ。――もうすぐ、夜明けかしら」
「ああ、そろそろだろうな。外がすこしずつ明るくなってるから」
「外に出てもいいかしら?」
「外に? また、なんで」
「なんだか、急にそんな気になったのよ」
二人は小声で話していたが、アーサーも気配で眼を覚ましたようだ。
「ルーク、リエナ、どうかした?」
「リエナが、外に出たいって言うんだ。お前も行くか?」
「いいよ。――三人で初日の出を拝むのも、悪くない」
三人が揃って、洞窟の外に出た瞬間――
遥か彼方の地平線から、朝日が昇りはじめた。輝かしい太陽の光が、わずかにたなびく雲を、鮮やかな橙色に染めていく。
神々しいほどの、雄大な景色だった。
三人はごく自然に頭を垂れ、祈りを捧げる。それに応えるかのように、あたたかな光が彼らの姿を包み込んだ。
――それぞれの新たなる誓いを胸に、新しい年が始まる。
(終)
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