旅路の果てに
第14章 1
暑さが本格的に厳しくなってきたある日の未明、リエナは目を覚ました。そっとお腹を撫でるとわずかに身体を震わせる。一瞬、絞られるような痛みを感じたのだった。
(いよいよかしら)
外はまだ暗く、夜明けまでにはもう少し間がありそうだ。ルークを見上げるとまだよく眠っている。幸い、今のリエナの震えは気づかれなかったらしい。
臨月に入り、いつ産まれてもおかしくないと言われている。けれど、周期的な陣痛が来るまではまだ時間がかかりそうだった。先程の痛みもほんの短い時間で、今はもう跡形もなく消えている。一度は起きようかと考えたのであるが、このまま朝まで様子を見ることにする。心配性のルークが夜明け前でもラビばあさんのところへ飛んで行きかねないからだ。それに本格的な陣痛が始まれば、眠るどころではなくなるのはわかっているから、すこしでも身体を休めておいたほうがいい。
リエナは再び目を閉じた。
***
いつもの時間に目を覚ました二人は、剣の稽古と朝食の支度の日課をこなしていた。リエナは起床後、ルークに今朝のことを話そうかと思ったが、やめておいた。あれから何度か軽い痛みはあるものの、大したことはなく、すぐにおさまるからだった。お産の様子についてこれまで、ばあさんだけでなく、村の女達からも色々と教わっている。ルークに隠すつもりではないけれど、やはり余計な心配はかけたくない。
そんなことを考えているうちに、朝食の支度が整った。ちょうどそこへ、ルークが汗を拭いながら戻ってきた。食卓を観て笑顔になる。
「いい匂いだ。うまそうだな」
「今、できたところよ」
リエナもにっこりと微笑み返した。
「腹減った」
ルークは白い歯を見せると軽くリエナにくちづけして湯殿へ行く。手早く顔と手を洗い、用意された朝食の席に着こうとしたとき、リエナの顔が一瞬苦痛に歪んだ。ルークは慌ててリエナを支える。
「リエナ、どうした?」
「そろそろかもしれないわ」
「そろそろ……?」
ルークはリエナの言わんとすることを悟った瞬間、大きく頷いた。
「わかった。ラビばあさんを呼んでくる。お前は横になって待ってろ」
言うなり、抱きあげようとしたルークをリエナはとめた。予想通りの行動である。
「ルーク、待ってちょうだい。そろそろっていっても、すこし痛みが来ただけよ。まだすぐに治まるし、間隔も長いわ。まだ大丈夫。おばあちゃんに来ていただくのは後にしましょう」
「お前の大丈夫はあてにならんぜ」
「もう、おばあちゃんから聞いたお話を、忘れてしまったの? 陣痛が来ても、すぐに産まれるわけじゃないのよ。まずは朝食を済ませましょう。冷めてしまうわ」
「確かに、間隔が短くなったら呼びに来いって言われてるがな……、何かあってからじゃ遅いだろうが」
「だから大丈夫って言っているわ。朝食が済んだら、エイミさんに先に連絡しておくつもりよ。そうすれば安心だもの」
ルークはしぶしぶリエナを椅子に腰掛けさせた。目の前のあたたかい朝食が冷めてしまうのももったいないことであるし、ここはリエナの言うとおりにすることにした。
***
「おはよう、リエナちゃん。――いよいよだね」
ルークに促されて家に入ったエイミをリエナが出迎える。ちょうど朝食の後片付けを終えたところだった。
「おはようございます。わざわざ足を運んでいただいて、ありがとうございます」
「そんな水臭いこと言わないの。陣痛はまだ我慢できるくらい?」
「ええ、朝早くに一度と、朝食前に何度か、軽く痛みが来たくらいよ」
普通に家事をこなしている様子に、エイミは安心したように頷いた。
「そのくらい間隔も長いならまだまだ先だよ。朝ごはんは食べたみたいだから、大丈夫だね。あとはできれば今のうちにお風呂に入っておこうか」
「はい、そうするわ。他に何か準備をしておいたほうがいいかしら」
「まだ慌てなくていいよ。赤ん坊の産着やらはいつでも出せるところにしまってあるし、あとはあたしたちに任せなさい。ただ、急に進むこともあるから、今日は必ずルークにそばにいてもらってね」
女二人が会話をしている後ろで、ルークは完全に蚊帳の外になっている。どっしり構えているようで実のところは緊張してきたのか、手持ち無沙汰にうろうろと歩きまわりはじめる。エイミはそれを見て、半ば呆れたように笑った。
「ルーク、これからのあんたの仕事は、後もうちょっとリエナちゃんについててあげることだけだよ。これからもっと痛くなるから、リエナちゃんの腰をさすってあげなさい。でも産まれそうになったら、男は邪魔なだけだから、居間で待ってるしかないからね。わかった?」
「待ってるしかない……のか?」
「そうだよ。それ以外に何ができるっての?」
「いや……だがな、心配だし」
「あんたがいくら頑張っても、何の役にも立たないの」
「役に立たないって、ひどい言い草じゃねえか」
往生際の悪いルークに向かって、エイミはやれやれとばかりにかぶりを振った。
「いいかい? もう一回だけ言うよ。待ってるしかないの。お産に男が役立たずなのは、大昔から決まってることだよねえ?」
エイミはきっぱりと言い切ったが、ふっと表情を緩めた。
「まあ、初めての子だから、緊張するのはわかるよ。けど、邪魔はしないでおくれね」
優しい言葉をかけてくれたものの、最後に釘を刺すのも忘れていない。ルークも渋々頷くしかない。
「……わかった」
「それならいいよ。じゃあ、あたしは一度家に帰るから。ついでだから、ラビばあさんに伝えとくよ。また後でばあさんと一緒に来るからねえ」
「帰るのか?」
「帰るよ。リエナちゃんの様子じゃ、産まれるのはまだまだ先。今から気を張ってたら、こっちだって疲れちまうよ」
「エイミさん、ありがとうございました。おばあちゃんにもよろしく伝えてね」
「じゃ、あとでね」
エイミはおおらかに笑って、二人の家を後にした。
「……産まれる、のか。リエナ、大丈夫か?」
ルークが声を掛けたが、返事がない。すぐ横にいたはずのリエナの姿は消えている。柄にもなく緊張しているせいか、気づかなかったのだ。気配を察することに関しては人間離れしていると言われるルークにしては、非常に珍しいことである。
慌てて家の中を探すと、リエナは寝室に居た。ここが産屋になるため、今のうちにあらかじめ用意しておいた細々とした品を出していたらしい。
「リエナ、寝てなくていいのか?」
「ええ、さっきもエイミさんに言われたでしょう? 病気じゃないのだから、普段と同じように過ごしていればいいのよ」
そう言うリエナの手には、ちいさな布がある。産まれてくる赤ちゃんのための産着だった。愛おしそうに抱えているリエナの姿は既に母親のもので、ルークの目には神々しいほどに美しく映る。
「とにかく、大事な身体なんだから無理するな」
「大丈夫よ。だから、あなたは安心して待っていて」
ルークは気が気でなかったけれど、手伝えることは何もない。
***
昼前になって、玄関でノックの音がした。エイミから話を聞いたラビばあさんが来てくれたのだ。
「いよいよじゃな」
「ばあさん、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
揃って頭を下げる二人に、ばあさんは鷹揚に頷いてみせた。
「任せておけ――ほんに義理堅いことじゃ。ほれ、ルーク」
ばあさんは手土産らしき籠をルークに渡した。籠にはサンドイッチや肉詰めのパイなど、簡単に食べられる料理が何種類も入っていた。
「エイミからことづかった。ルークはこれでも食べて待っておれ」
「……ありがとうよ」
きちんと礼を言うものの、受け取るルークの表情も声も、どこかここに在らずといった風情である。
「何じゃ、ルーク。緊張しとるんか?」
「当たり前じゃねえか!」
「ふん、おまえさんが緊張してどうする。お産をするのはリエナちゃんじゃ。男はこういう時こそ、どんと構えて待つしかない――さてリエナちゃん、最後の診察をするからの」
そう言い残すと、リエナを連れて、さっさと寝室に入っていく。
リエナは寝台の端に腰掛け、ばあさんは傍らの椅子によっこらしょと座った。
「陣痛はどうかね。まだまだ間隔は長そうじゃが」
「ええ、まだ時折来る程度よ」
「ほうか、それなら様子だけでも見ておこうかの」
診察を終えて、ばあさんは笑顔になった。
「ふむ、お産は始まっとる。ただ、産まれるのはまだまだ先の様じゃな。これから本格的に痛みが来るからの。まずは湯を使って、あとは体力を温存するよう、合間合間にすこしずつでも何か食べて、眠っておくんじゃよ」
「わかったわ、おばあちゃん。――よろしくお願いします。」
「任せておくがええ。がんばるんじゃよ」
ラビばあさんとリエナは居間に戻った。ルークは所在なさげに、またうろうろと歩きまわっている。それを見てラビばあさんは、大笑いした。
「なーにをうろうろしとるんじゃ。どんと構えておれと言うたのを忘れたのかの?」
普段とはまるっきり違うルークの姿であるが、仕方ないのことであるのも、ばあさんにはよくわかっている。穏やかに頷きつつ、ルークを見上げて言う。
「お産はまだまだ先じゃよ。早くて今夜か、明日の朝までかかる。気持ちはわからんではないが、今からそんなことでどうするんじゃ?」
「今夜か明日!? そんなにかかるのか?」
「お前さんはいても何の役にも立たんわい。まだ当分ついていてあげててよいぞ。痛みが来たら、腰をさすってあげるんじゃよ。わしは後から来るからの」
「帰っちまうのか!?」
「今からそんなに力が入っとったら、わしの方が持たん。リエナちゃんにも言っといたが、湯を使ったら、食べられるうちに食べて、眠れるうちに少しでも眠っておくんじゃよ」
ばあさんの言葉に、ルークは思わず文句を言いそうになったが思い直した。ついさっき、エイミにまったく同じことを言われたのを思い出したからである。
二人揃ってばあさんを送り出し、リエナは湯を使うために寝室へ向かう。ところか、急に足を止め、扉によりかかった。ルークが慌てて駆け寄って支える。
「……痛むか?」
「いいえ、だいじょう……」
急に来た痛みに、リエナはすこしばかり顔をゆがめる。ルークは腕を回して腰の辺りをさする。
「……ありがとう、ルーク。楽になったわ」
***
午後になってから、もう一度エイミが様子を見に来てくれた。その後は日が傾くまで、ルークは言われた通り、リエナの様子を見守りつつも、ずっとうろうろし続けていた。リエナの陣痛もだんだんと感覚が短くなってきている。けれど今は慌てても仕方がないので、ゆったりとその時を待っている。
まもなく日が暮れようとするころ、ラビばあさんにエイミ、それと手伝いとして村の女達が数人やってきた。
「えらい、大勢だな」
思っていたより大人数なのに驚いたらしい。
「人手は多いほどええ。――おまえさんは手数に入らんしの」
「またそれかよ」
そう言いつつも、迎え入れる。リエナは居間の長椅子に腰掛けている。
「リエナちゃん、がんばるんじゃぞ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ルークもあらためてリエナに寄り添い、二人で女達に頭を下げた。
「リエナと俺達の子をよろしく頼む」
「任せておけ」
ばあさんはしっかりと請け負ってくれた。
「ルーク、これでおまえさんの役目は終わった。どんと構えて待っておれ。リエナちゃんは産屋で診察じゃ」
リエナはラビばあさんとエイミと三人で産屋に籠る。残りの女達は、居間で待機である。手持無沙汰になったルークはまた居間でうろうろするしかなかった。相変わらずの様子に、女達は声をあげて笑っている。
「ルーク、あんたがうろうろしたって、仕方ないよ。ほら、お腹すいたでしょ。晩ごはん作ってきたから、食べておくれ」
「晩飯? そういえば……食うのを忘れてたぜ」
「食いしん坊のあんたがごはん食べるの忘れるなんて、よっぽどだね」
ルークはそれをうわの空で聞いていた。やはり気が気でないらしく、視線は寝室の扉の方ばかりに向けている。ちょうどそこで、扉からエイミが現れた。
「リエナの様子はどうだ?」
「だいぶ進んできたよ。――みんな、お湯を沸かしとくれ」
女達は頷くと立ち上がる。つられたように、ルークも産屋に足を向けた。
「ルーク、どこ行くの」
「リエナの様子を見てくる」
それを聞いたエイミと女達が、慌てて押しとどめた。
「ほらほら、男は入っちゃだめだよ! 今度入ろうとしたら、家から追い出すからね。いいかい?」
ルークがはっと我に返る。
「――すまない」
謝るルークに、エイミが広い背中を叩きながら言う。
「ルーク、心配なんだねえ?」
「ああ、心配だ。だが、当たり前じゃねえか?」
「確かにあんたの言う通りだよ。でもね、母親になる女がみんな通る道さ。あんたのお母さんだって、そうやってあんたを産んでくれたんだから」
それを聞いて、ルークは衝撃を受けたように、うなだれた。今まで見たことのない姿にエイミの方が驚いた。ルークは声を絞り出すように、ぽつりと言った。
「俺の母親は、俺を産んで亡くなった。もし、リエナが……」
これを聞いたエイミと女達は、気まずそうに顔を見合わせた。
「あんたのお母さんは……。ごめんね、ルーク」
しばしの沈黙の後、ルークはゆっくりとかぶりを振った。
「……悪い。こちらが余計なことを言っちまったな」
「あんたが心配するのはわかるよ。でもね、リエナちゃんは大丈夫。お産は順調に進んでるし、なんにも心配ないからねえ」
「ああ、そうだな……。リエナと俺達の子を頼む」
「わかってる。今はあたし達に任せて。いいね?」
それだけ言うと、エイミはまた慌てて寝室へ戻っていった。
***
一人取り残されたルークは、どうしても落ち着かない。外の空気を吸った方がいいかと考え、玄関の扉を開けた。
さっと冷涼な空気が頬を撫でた。日中は厳しい暑さでも、山の中にあるトランの村は、朝晩は過ごしやすい。
ルークは一つ大きく、深呼吸する。新鮮な大気のおかげか、わずかながら緊張がほぐれていく。
空には、見事な満月。
何一つ欠けることのない銀盤が、淡く辺りを照らしている。
(リエナは、満月を象徴する姫だ)
リエナはその強大な魔力と類稀な美貌から、月の女神の再来とまで謳われた。そして、ムーンブルク王家は月の神々の末裔であり、月の加護を受ける一族である。
(リエナは無事に俺達の子を産む)
満月の光を浴びながら、不思議と、心が落ち着いていくのを実感していた。
既に夜も更けた。家の中に戻ったルークは、居間の長椅子に腰掛けた。もうあと自分ができることは、信じて待つだけである。
***
まもなく夜も明けようとするころ、大きな産声が上がった。
「産まれた…!?」
思わず立ち上がり、その直後にまた今度は、全身の力が抜けたように、どさりと長椅子に座り込んだ。呆然としているルークをよそに、女達は忙しげに産屋を出入りしている。
しばらくして、エイミがルークを呼びに来た。ルークはまだ呆けて座り込んでいたが、エイミに声をかけられて、ようやく我に帰ると、すぐに産屋に駆け込んだ。
「リエナ! 無事か!?」
リエナは疲れの見える顔で横になっていたが、その表情は大役を果たした満足感にあふれていた。隣には産着にくるまれた赤ちゃんが眠っている。
「ルーク……、無事生まれたわ。男の子よ。……うれしい」
ルークは寝台の横に膝をつくと、リエナと産まれたばかりの我が子を交互に見つめながら、リエナの手を握る。
「男か、よく頑張ったな。……本当によかった」
頃合いを見計らい、ラビばあさんがルークに声をかける。
「ほんにおめでとう。――ほれ、おまえさんの息子じゃ。さあ、抱いてみなされ」
ばあさんはリエナに微笑みかけると、ひとつ頷いて赤ちゃんを抱き上げる。ルークは恐る恐る、産着に包まれた我が子を受け取った。まだまだ手つきは危なっかしい。赤ちゃんは目を閉じてすやすやと眠っている。もみじのようなちいさな手はしっかりと握りしめられていた。
「うわ、ちいさいな。それに軽いし、落っことしそうだ」
それを聞いて女達はみんなで大笑いした。女達を代表して、エイミがルークに言う。
「おめでとう、ルーク、リエナちゃん。初めて父親になった男は、みんなそう言うよ。抱っこはすぐに慣れるさ」
「ほんによう頑張ったの。元気のええ男の子じゃ。もっと時間がかかるかと思っとったが、思いのほか早く済んだ。安産だったぞ。よかったの」
「おばあちゃん、みなさん、本当にありがとう……」
「俺からも礼を言う。リエナと俺達の子が世話になった。あらためて、これからもよろしく頼む」
無事に対面が終わったところで、女達は手際よく後片付けを済ませていく。それぞれが二人に声をかけると、帰っていった。ラビばあさんとエイミの二人は、しばらく手伝いのために残っていてくれる。
「ルーク、赤子をリエナちゃんの隣に寝かせてやっとくれ」
「わかった」
また恐る恐るといった手付きである。自分の力が並外れて強い自覚があるだけに、慎重にならざるを得ないのだ。それでも、ばあさんに手ほどきを受けつつ、リエナの隣に寝かせることができた。
いつの間にか、すっかり辺りは明るくなっている。
ラビばあさんは、エイミに目配せをすると、二人で寝室を出ていった。
ルークはリエナと我が子が寝ている寝台の横にしゃがみこみ、リエナに優しくくちづけすると、手を取って話しかける。
「本当によく頑張ったな。この子が俺達の子か……。こんなにちいさくても、一人前に全部揃ってるのが不思議だぜ」
リエナも愛おしそうに、生まれたばかりの我が子を見つめていた。
「なにもかも、あなたのおかげよ。――この子は多分黒髪ね。男の子だし、あなたに似ているとうれしいわ」
「そうか? 俺に似てたら、やんちゃで困るかもしれんぞ」
「おばあちゃんもそんなことを言っていたわね」
しばらく親子三人水入らずで過ごした後、控えめにノックの音がした。ルークが扉を開けると、ラビばあさんが朝食の盆を手に、満面の笑みで立っている。寝室に入ってくると、リエナに声をかけた。
「さあ、リエナちゃんはゆっくりお休み。今日からまた忙しくなるからの。ルーク、エイミが朝食の支度をしてくれたから食べるがええ」
「何もかも、ありがとうよ」
「なんの、水臭い礼は不要じゃ。わしは産婆としての職務を全うしたにすぎん。さて、わしも居間で一休みさせてもらうとしようかの。ルーク、何かあったら遠慮なく呼んどくれ」
そう言い残すと、傍らの小卓に朝食を置き、扉を開けて出て行った。
「じゃ、リエナ。ゆっくり寝るんだぞ。俺はここにいるからな」
「ええ、そうさせてもらうわ」
リエナはゆったりと微笑むと目を閉じ、眠りについた。その後もルークはずっと、リエナと我が子の寝顔を眺めていた。
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