執務室にて −1−
ある夜更け、仕事を終えて自分の執務室を後にしたルークは、リエナの待つ自室へと向かっていた。長く続く廊下は隅々まで磨き込まれ、壁には燭台――蝋燭型の器具に魔力の光を灯したものが柔らかく辺りを照らしている。
この年の春、ルークとリエナは周囲の祝福を受けてめでたく婚礼の儀を挙げた。旅の終わりの約束の日から一年半余り後の、春爛漫の日のことである。
ルークとリエナは、ムーンペタにあるムーンブルク王家の離宮で新たな生活に入った。
ムーンペタの郊外、やや高台の町全体を見下ろすことができる場所に建つこの離宮は、あの惨劇の時には王城から離れていたことが幸いし、無傷で残った。そこで、リエナが旅立ちを決意して間もなく、生き残った有力貴族達の手で、将来の復興に向けて準備に入るための業務を統括する本部がこの離宮に置かれることとなった。
そしてリエナ凱旋後、廃墟となった王城を再建するまでの仮の王城として使われているのである。
現在のルークはムーンブルク女王の王配である。称号はローレシア大公、周囲の人々からは敬意をこめて大公殿下と呼ばれている。
無論、ここまで来る道程は決して容易なものではなかった。ルークは凱旋して間もなく、リエナと結婚したいと宣言した。それも当初の予定――ムーンブルク崩壊前には、リエナがローレシアへ嫁ぐはずだった――とは違い、ローレシアの王太子位を弟の第二王子に譲り、ムーンブルク女王として即位予定のリエナに、ルークの方が婿入りを希望したのである。
当然のことながら、周囲からは猛反対を受けた。しかしルークは一貫として主張を曲げず、粘り強く交渉を続け、最終的には周囲をすべて説得してリエナとの婚姻にこぎつけたのだった。
リエナは女王としてルークとともにムーンブルク復興事業に邁進している。二人は多忙ながらも、心から幸せな日々を送っているのである。
********
「お帰りなさいまし、大公殿下」
扉を開けて出迎えてくれたのは、リエナの元乳母であるマーサである。彼女はムーンブルク崩壊の一年前に家庭の事情を乳母の職を辞したが、凱旋の時に復帰し、現在はリエナ付きの筆頭女官として身の回りの世話にあたっている。
マーサをねぎらいつつも、ルークは居間全体に視線を巡らせた。いつもならリエナも一緒に迎えてくれるはずなのに、姿が見えない。先に寝室に引き取ったのであれば、その旨すぐにマーサが報告するはずである。事情を悟ったルークがマーサに尋ねた。
「リエナはまだなのか?」
「はい」
「ここのところ、毎晩遅いな」
「お仕事が立て込んでいらっしゃるようでございますよ。もう少しかかると、先程使いが参りました」
「また体調を崩したら大事になるのに、自覚がなさ過ぎて困る」
「私もいつもそう申し上げているのですが、なかなか聞き入れてくださいません。今年はまだ暑うございますし、そのせいか、あまりお食事もお進みになられないようでございます」
マーサの言う通りだった。間もなく夏も終わろうとしていたが、冷涼な気候のムーンブルクも今年は暑さが厳しい。ただでさえ小食なうえに、食事もゆったりと取るよりも、公務がらみで誰かとの会食が多いから、料理を楽しむどころではないのである。
「リエナの今日の晩餐は? 確か、地方貴族の数人と会食だったはずだが」
「左様でございます。やはりどうしてもお話が中心で、あまりお召し上がりになっていらっしゃらないようだと報告を受けました。その後すぐに、執務室にお茶と軽いお食事をお持ちいたしましたが……」
「また、書類に埋もれていたんだろ?」
「仰せの通りでございます」
「仕方ないやつだ」
ルークは大きな溜め息をついた。
「大公殿下からもよくよくおっしゃってくださいまし」
マーサもずっと心配しているのである。ルークとリエナが正式に結婚して数か月経った。リエナの旅の疲れからの体調不良はかなり良くなっていたものの、まだ無理は禁物なのである。女王であるリエナが率先して復興事業に当たること自体は結構であるが、もう一つ、さらに重要な責務がある。無理を重ねることによってそちらに障っては元も子もなくなってしまうのだから。
ルークはマーサを見下ろした。
「――俺が迎えに行ってくる。マーサ、もう下がっていいぞ」
マーサもほっとした表情になった。リエナの仕事を中断させてでも部屋に連れ戻すことができるのは、ルークだけだからだ。
「かしこまりました、大公殿下。それでは私はこれで下がらせていただきます。簡単ですが、居間にお夜食をご用意しておきました。よろしければ、御二方でお召し上がりくださいまし。陛下のお支度はいつも通り、お化粧部屋にととのえてございます」
マーサの言葉は一見、優秀な女官らしからぬものである。本来ならば、女王と夫君が自分で身の周りのことをするなど有り得ない。けれど、二人とも旅の生活で慣れているから、この程度はどうということもない。何より、ようやく結婚したものの、二人はそれぞれ多忙を極めていて、食事すら一緒に取れない時の方が多いのだ。だから就寝前のひとときは、夫婦水入らずの貴重な時間である。それを邪魔しないようにとのマーサの気遣いだった。ルークもそのことはよくわかっている。鷹揚にうなずいた。
「わかった。遅くまでご苦労だったな」
「おやすみ遊ばしませ」
マーサは一礼すると、部屋を後にした。
********
リエナの執務室の前には常に護衛兵が二人いる。片方が眠そうな声でもう一人に声をかけた。
「陛下も遅くまで大変だな」
もう一人が軽く伸びをして、それに答える。
「毎晩、よく続くよなあ。責任感がお強いっていうかなんていうか」
「それだけ、ムーンブルクを復興させたいってことだと思う」
「でも、あんなに若くて綺麗なんだから、公務なんて他のお偉い方々に任せたって、誰も文句なんて言わないだろうに」
「まさかそういうわけにもいかんだろう? あの襲撃で生き残った王族は陛下お一人なんだから、当然の義務だとお考えじゃないのか?」
「まあ、そりゃそうだけど」
「それにしても、陛下は本当に気高くてお美しい方だ。しかもお優しい。俺達みたいな末端の護衛兵にまで直々にお声をかけてくださるんだから」
まだ若い近衛兵達にとって、リエナは雲の上の存在であるが、同時に憧れの対象でもあるのだ。
「大公殿下がうらやましいぜ。あんなすごい美女を独り占めできるんだから。そりゃ復興事業は大変だろうけど、あの陛下を……だからなあ」
「おいおい、こんな場所で不謹慎なこと言うな。誰かに聞かれたらどうするんだ?」
慌てて注意したが、言った本人はまるっきり気にしていないらしい。
「こんな夜更けに誰も来やしねえよ――ああ、俺も早く結婚したいなあ。疲れて帰って、冷たい寝台で独り寝じゃあ寂しいもんだぜ」
そんな会話を交わしていたが、廊下の向う側から歩いてくるルークの姿を認めていきなり直立不動になった。
ルークが執務室の前に来ると、二人とも礼を取る。ルークも鷹揚に頷いた。どうやら今の会話は聞かれずに済んでいたらしい。二人とも内心でほっと胸を撫で下ろしていた。
「陛下は在室か?」
「はい。まだ執務中でいらっしゃいます」
「わかった。――遅くまで大儀だったな。もう下がっていい。陛下の後の護衛は私が務める」
二人ともやや驚いたが、他ならぬローレシア大公の言葉である。リエナが在室している限り、持ち場を離れてはいけない決まりであるが、ルークから命じられた場合だけは別である。ここで下がっても上官から叱責を受ける心配はない。護衛兵たちはルークに深々と一礼すると、それぞれ挨拶の口上を述べて下がっていった。
ルークは執務室の扉を開けた。リエナの執務室には、実際に執務を執る部屋の前に控室を兼ねた前室がある。そこは無人だった。ルークは訝しげに首をひねった。通常なら必ず書記官なり侍女なり誰かが詰めているはずだからだ。
そのまま真っ直ぐ執務室の前に行き、扉を叩く。返事が来る前に扉を開けた。
「あら、ルーク」
室内ではリエナが執務机に向かっている。予想通り数多くの未決書類に囲まれたままで、まだ決裁の署名を続けていたようだ。そして、他には誰の姿も見えない。
「リエナ、一人か?」
ルークが驚いて周りを見渡した。
「他の連中はどうした?」
「もう遅いから、一足先に下がってもらったのよ。宰相も書記官達も、このところずっと夜更けまででしょう?」
ルークはやや呆れ顔になった。
「そういうお前がいちばん遅いじゃないか。マーサも心配していた。根を詰め過ぎて体調を崩したらどうする?」
今夜のリエナの表情は明るく、特に疲れている様子もない。それでも、言うべきことは言っておかなければならない。ルークは安堵しつつも、つい窘める口調になってしまう。
「ごめんなさい。でもこれだけは、どうしても今夜中にやってしまいたくて」
「何の決裁だ?」
ルークがリエナの手元の書類に目を落とした。先日から問題となっているある案件に対しての具体的な解決策だった。
「ねえ、ルーク。質問してもいいかしら?」
「何だ?」
「ここのところだけれど、よくわからなくて。わたくしは、この方法でもいいと思うけれど……あなたの意見を聞かせてくれないかしら」
リエナは女王であり、同時にムーンブルク復興事業の総責任者でもある。けれど、当然のことながら総責任者としての業務をすべて行うのは非常に難しかった。
何故ならリエナは、このような業務につく必要などなかったからだ。本来なら、王女としていずれ他国に嫁ぐはずだったが――襲撃さえなければ今頃はローレシアの王太子妃である――ムーンブルク襲撃で父王と兄王太子を亡くし、最後の王族となったために、王位を継いだのである。
そのため、国を継ぐ者としての教育を充分に受けてきたとは言い難い。王族女性の教養なら誰にも負けないほどであったが、その反面、帝王学は一通り学んだにすぎないのだ。特に政治面では正直なところまだ勉強中と言える状況である。
もちろんリエナは非常に熱心に取り組んでいる。元から聡明であり、周囲にもルークを筆頭に、宰相や生き残った大公爵家の当主らなど、経験不足の女王を充分に補佐できるだけの人材が揃っている。彼らの薫陶を受けて、めきめきとこの方面でも実力をつけてきている。
それでも、このような複雑な案件はまだ手に余る。リエナは疑問点を残したまま署名をすることは決してない。自分なりに納得がいくまで書類を読み込んでいるうちに、ついこんな時間になってしまったらしい。
リエナから書類を手渡され、ルークは目の前の執務机に軽く腰を掛けた。ざっと通して読んでみる。リエナが何に対して疑問に思うのかはすぐに理解できた。
「俺もこれでいい気がするが、まだ改善の余地はありそうだな。一晩、考えさせてくれ。纏まったら明日、宰相も交えて協議するのがいいだろう」
「そうね」
リエナはルークを見上げて頷いた。その美しさにルークは見惚れていた。結婚して数ヶ月経つが、未だにリエナのちょっとした仕草や表情にしょっちゅう見惚れてしまうのである。
ルークは今、執務机に腰掛けているため、リエナを間近に見下ろす格好になっている。行儀がよいとは言い難いが、それがいちばん会話しやすいのだ。もちろん、普段は人目のある時には絶対にしないけれど。
ルークはこの角度から見ると、リエナの豊かな胸がいっそう強調されて見えることに気がついた。まだ暑い日が続いているから、ドレスの布地が比較的薄いせいもあるのかもしれない。夏物であっても肌を一切見せない襟の詰まった長袖のドレスだけれど、それがかえって曲線を際立たせているのである。
唐突に、ルークの手の中でたっぷりと柔らかな感触がよみがえる。
――早く、リエナを抱きたい。
ルークの内部で、急に欲望が突き上げた。けれど、かろうじて平静を保ったまま、リエナに声をかける。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻るぞ。護衛兵もマーサも、俺がもう下がらせた。最後まで働くのが女王陛下じゃ、格好つかないぜ」
「ええ、そうするわ」
リエナはほっとしたように笑みを浮かべた。ようやく女王の責務から解放されたとわかる、人前では決して見せない表情だった。愛する妻が自分にだけ見せてくれる笑顔――ルークには、たまらなく愛おしいものである。
リエナは執務机の上をきちんと片付けた。ルークが背後に移動し、リエナのために椅子を引く。後ろから見るリエナも美しい。透けるように白いうなじと白金に煌めく後れ毛。そして、肩越しに見える見事に盛り上がった胸に、どうしても視線が釘付けになってしまう。
「ありがとう」
立ち上がる時、リエナの胸が重たげに揺れたのがわかった。おまけに、ほのかにいい香りがする。たまらず抱き寄せた。周囲に誰もいないせいか、リエナも素直に身体を預けてくる。軽くくちづけると、リエナははにかんだような笑顔を見せた。可愛くてたまらず、更に強く抱きしめた。
自然に、ルークの身体にリエナの豊かな胸が押し付けられる格好になる。
――今すぐ、リエナが欲しい。
自分にあたる柔らかな乳房の感触に、我慢の限界はあっさりと超えてしまった。ルークはリエナの顎に手をかけ、上向かせた。
「……ルーク?」
リエナの続きの言葉は出なかった。ルークの熱い唇に塞がれたからである。ルークの舌がリエナの唇を割った。舌を絡めながら右腕で華奢な身体を抱き籠め、左手でドレスの上から胸元を探り、柔らかく揉みはじめた。
予期せぬルークの行動に、リエナは戸惑いを隠せない。けれど、意に反して身体は熱くなっていく――それに気づいたリエナは自分でも驚いていた。
さんざん甘い唇と舌を味わった後、ルークの唇が今度は耳朶に移る。ようやく唇を開放されたリエナが訴える。
「ルーク……駄目……こんなところで……」
リエナは息を乱しはじめていた。ルークの左手が胸から離れない。まだドレスの上から揉みしだき続けている。ルークの手の中で、ふくらみの頂きがドレスの布越しですらわかるほどに固く尖っていく。今度はその一点を執拗に弄り続ける。
弱いところを攻められ、リエナは既に腰が崩れそうになっている。それに気づいたルークはリエナから一旦手を離した。が、すぐに細い胴を両手で掴んで軽々と抱き上げ、目の前にある執務机に腰かけさせた。邪魔な椅子を脇に動かし、両足が浮いたままのリエナの膝の間に、強引に膝をねじ込み、そのまま抱きすくめた。
再び唇を塞ぎ、舌を絡ませる。ひたすら貪りながら、ルークは背中に手を回し、ドレスのボタンを外し始めた。
「……!」
リエナも流石にこれ以上は無理だった。どうにか抵抗しようとしたけれど、抱き込まれて身動きが取れない上に、唇を塞がれていて訴えることすらできない。
白い首筋と肩が見えたところでルークはようやく唇を離したが、今度はそのまま一気にドレスを引き下ろした。リエナはあまりの出来事に言葉を失ってしまっている。
ルークは構わず、袖から片方ずつ腕を抜かせた。もとから細い胴は、コルセットでさらに締めているから嫌でも胸の豊かさが強調されている。繊細なレースの肌着に包まれた胸が露わになったところで、今度は邪魔な肌着をむしり取るように引き下げる。
目の前に、真っ白く輝く豊かな二つの乳房がこぼれ出た。淡い桃色の乳首は、両方とも固く尖っている。ルークがもっと近くで見ようと、リエナの前で膝立ちになる。リエナがわずかに身じろぎすると、ルークの目の前で、まるで愛撫を待ち焦がれているように揺れた。
ルークはたまらず、むしゃぶりついた。逞しい両腕でリエナの二の腕を軽く押え込んで抵抗を封じ、谷間に顔を埋める。そのまま唇と舌を這わせ、白い柔肌をきつく吸う。
瞬く間に、鮮やかな紅い花びらが浮かびあがった。
ルークの唇が徐々に、リエナの右の乳房に移る。ゆったりとした動きで、少しずつ、頂点に向かって舐めあげていく。
リエナの身体から力が抜けてきた。さっき、ドレス越しにさんざん弄られた乳首は、ルークの愛撫を求めるかのように、より一層固く尖っている。けれど、ルークはすぐにそこには触れようとはしない。近くまで辿り着き、また離れを何度も繰り返した。
リエナの表情がすこしずつ変化してきた。明らかにもっとして欲しいのに、耐えている姿がいじらしい。
ようやくルークの舌が頂きに達した。けれどまだ乳首には触れず、舌先でゆっくりと乳輪をなぞっていくばかりである。
焦らして焦らして、ようやく右の乳首を口に含んだ。そのまま強く吸い上げる。
やっと求めていた快感を与えられて、リエナは身体を震わせた。身体の中心を走る甘い疼きに、声を出しそうになるのを懸命にこらえる。感じているのに必死にそれを隠そうとしているリエナの姿が、一層ルークを煽りたてる。
口に含んだまま、更に軽く歯を当て、執拗に舌で転がす。既にリエナは抵抗できなくなっている。押えていた腕を離し、もう片方の乳房も右手で揉みしだきはじめた。たっぷりと張りのある柔らかさを堪能しながら、こちらも親指で乳首を攻める。
両方の乳首を同時に弄られて、快感が何倍にもなってリエナを襲ってくる。たまらず声をあげそうになっていた。けれどまだ、乱れまいと懸命に耐えている。
「……駄目。こんなところで」
リエナは言葉だけで儚い抵抗を試みるが、ルークは答えない。ただひたすら、愛撫に没頭するのみだった。
リエナの身体から完全に力が抜けた。ルークは口と手で乳房への愛撫を続けながら、空いている左手でドレスの裾を探った。手と唇を離し、ドレスを生絹のペチコートと一緒に掴んで一気にまくり上げる。
「ルーク……!」
リエナの悲鳴のような声が上がる。
今度はガーターベルトと絹の靴下に包まれた、美しい足が目に飛び込んでくる。透き通るほどに白く豊かな肉付きのふとももとすんなりとしたふくらはぎ、折れそうなほどに細い足首。
ルークは容赦しなかった。リエナの腰を浮かせてドレスの裾を更にまくり上げ、腰まで露わにしてしまった。おまけにリエナの膝を曲げさせ、足を両方とも机の端に乗せる。そのはずみで、華奢な靴が転げ落ちた。
リエナは羞恥のあまり、目を閉じて逸らしてしまった。ルークが自分のすぐ目の前で膝立ちになってしまっているから、必然的にリエナは足を開いた格好である。隠さねばならない場所をすべて灯りの元に晒されたのだ。
ルークはリエナを見下ろした。満足げな笑みが唇に浮かぶ。
リエナの秘所がすでに濡れそぼっているのは、薄いレースの下着を透かして見えている。くちづけと両方の乳房への愛撫だけで、ここまで濡らしてしまうほどに感じていた――もっと感じさせたい。リエナの甘い喘ぎ声が聞きたい。ルークの欲望はさらに膨れ上がっていく。
リエナはルークの視線が自分のどこに注がれているのかに気づき、必死に膝を閉じようとしたが、ルークが許すはずがない。懸命に身体を後ろに下げようとしても、片腕で押さえ込まれてしまって身動きが取れない。おまけにリエナが今夜着けている下着は、腰の横の部分を細い紐で結んであるだけ――ルークにとって、まことに都合のよい構造だった。
ルークはしばしその光景を堪能した後、次の行動に移った。自分の大きな身体と左腕で、必死に足を閉じようとするリエナを押さえたまま、わざとゆっくりとした動作で、腰を落とした。しゃがみこんでリエナの両足の間に陣取る。
リエナのふとももが細かく震えている。羞恥のせいなのか、それとも別の理由なのか――そんなことを考えつつ、レースの上から、つと指を滑らせた。予想通り、薄い布越しにも湿り気を感じるほどに濡れている。
リエナは自分が既にルークを受け入れられる状態になっていることを自覚している。見られることはもちろん、それを気づかれてしまうことが、リエナにとっては、耐え切れないほどに恥ずかしい。
「お願い、もうやめて……!」
リエナは必死に懇願した。上半身は既に露わになっている。さらに、こんなはしたない姿にされてしまった。人払いされているとはいえ、ここは執務室。既に夜も更けていて、扉前の護衛兵がいなければリエナが不在だとわかるから誰かが無断で入室してくることはない。しかし、あくまで公的な場所なのだ。
ルークはもう一度、先程よりもほんのわずか力をこめて指を滑らせた。それでも指使いは決して強いものではない。
リエナは言葉では抵抗していても、とっくにルークの愛撫に翻弄されていた。気が狂いそうなほど恥ずかしいのに、身体はもっと強い刺激を求めている。自分から腰を浮かせそうになるのを懸命に耐えた。ルークにもそれはわかっている。わかっていて、一番敏感な場所にはわざと触れずに何度もそれを繰り返す。
さんざん焦らした後、ルークは片方の紐を軽く引っ張った。それは予想通り、はらりとほどけた。じっとその場所を見据えたまま、残りの紐を、今度は少しずつ引っ張った。
濡れ濡れとした、リエナの秘所がルークの目の前に現れた。
ルークはリエナの秘所に顔を寄せた。おまけに両手で内ももを押え、閉じるどころかますます広げさせてしまう。
「たまらない、眺めだぜ……」
ルークは思わず呟きを漏らした。もちろん、今まで何度も見た光景であるが、こんなに明るい場所ではっきりと見せてもらったことはない。
「こんなに濡れてたんだ。つやつやして――本当に綺麗だ」
ルークの熱い吐息がそこに掛かったと感じたとたん、唇と舌が触れたのを感じた。
「ルーク……駄目!」
リエナは叫んだがルークは容赦ない。まずゆっくりと花芯の周囲を舐めあげた、それでもまだは抵抗をやめようとはしていない。いくらすべてを許した最愛の夫であっても、羞恥の念が消えるわけではないのだ。
リエナの心の中で、羞恥心と快感への欲求がせめぎ合う。
ルークはあふれる蜜をすすりながら、リエナに聞かせるかのように、わざと音を立てている。それだけで、リエナも自分がどれほど濡れてしまっているのか、否応なしに思い知らされるのだ。
やがてルークの舌が花の芽を捕えた。そこは艶やかに濡れて、既にふくらんでいる。舌先でつつくようにはじいた。びくりとリエナの腰が震え、溜め息のような甘い喘ぎ声が漏れる。
一度声をあげてしまえば、もう止めることなどできなかった。心の抵抗もむなしく、身体は敏感に反応してしまう。
ルークはリエナを見上げながら、花の芽から花芯までを丹念に舐め続けた。リエナは恥じらいながらもどうしようもないほどに感じてしまっているのを隠せない。めくるめく快感の大波に飲み込まれ、声をあげ続けた。リエナの陶然とした表情をじっと見つめ、甘い喘ぎを聞きながら味わうのは、ルークにとってもたまらない快感である。
やがてひときわ高く、リエナの声があがった。膝もふとももも細かく痙攣している。ルークはそれを確認すると満足げな笑みを浮かべていったん唇を離した。
リエナを見上げれば、ぐったりとしている。のけぞって両腕を後ろについて身体を支えている。足はもう閉じる気力もないのか、開かれたままだった。残念ながらこの位置からは表情は窺えないけれど、半ば脱げているドレスからこぼれた乳房と、ガーターベルトも靴下も着けたまま、そこだけ露わにされた秘所――今まで見たことがないほどの、何とも煽情的な光景だった。
ルークは逸る心を抑えて立ち上がった。ようやくリエナの顔を見ることができた。うっとりと、半ば閉じられうるんだ菫色の瞳を見た瞬間、今は自分の方が我慢の限界に来ていることを自覚した。上着を脱いで傍らの椅子に放り投げ、ズボンのベルトを外す。
リエナの腰をつかみ、躊躇いなく一気に貫いた。リエナの悲鳴にも似た声が上がった。一度頂点に達したせいか、すぐにきつく締め付けてくる。ルークもいつもよりさらに強い快感に、我を忘れそうになる。
ぐったりとしていたはずのリエナも、すぐに喘ぎを漏らし始める。ルークはリエナの上半身を抱きかかえた。リエナも細い腕を首に回してくる。ルークはまたもや唇を塞ぐ。リエナの中でえぐるように腰を使いながら、ひたすら柔らかな唇と舌を貪った。
リエナもますます乱れ始めた。恥じらってはいても身体は嘘をつけないのだ。珍しく自分からも舌を絡め、ルークをひたすら締め付けてくる。いつも以上に感じているのは明らかだった。そんなリエナがルークは愛おしくてたまらない。もっともっと乱れさせたい――ルークの動きが激しくなっていく。
リエナの息が上がってきたところで唇を離し、今度は開かれた両方のふとももを膝の下から抱え込んだ。執務机からリエナの腰が浮き上がる。ルークは前後に大きく動き始めた。
ルークが最奥を突くたびリエナは髪を乱し、締め付けはますます強くなってくる。一番敏感な場所を攻め続けられて、甘い喘ぎ声はもう抑えることができない。
ひときわ深く、ルークが突き上げた。リエナはルークにすがりつき、高い声を上げる。昇りつめるのと同時に秘所は細かく痙攣し、搦め取るようにルークを締め上げる。
その天にも昇るような快感に震え、ルークもリエナの最奥で己をほとばしらせた。
ルークは荒い息を吐きながら、身体を繋げたままリエナをそっと執務机に下ろした。ぐったりともたれかかってくるリエナを抱きかかえる。リエナのそこはまだ痙攣をやめていない。
互いの体温を感じながら、しばらくそのまま抱き合っていた。身も心もこれ以上ないほどに一体になっていると感じられる――ルークもリエナも、同時に昇りつめた後の、この時が好きだった。
しばらく余韻に浸り、ようやく落ち着きを取り戻したルークは身体を離した。リエナはまだ力が入らないらしい。
きちんと結い上げた髪は乱れてほつれ、灯りを反射している後れ毛がなまめかしい。肌着からあふれ出た豊かな乳房は大きく上下し、ドレスの裾は腰までまくり上げられ、まだ露わになったままの秘所はぐっしょりと濡れている。支えなければ崩れ落ちそうになるほどの姿はしどけなく、これ以上ないほどに色っぽかった。
執務室だからリエナは着衣のままだったが、いつもなら、早々にすべて脱がせていた。何一つ身につけない姿をすみずみまで鑑賞し、しっとりと吸いつくような肌を全身で感じるのがルークの好みだからだ。だから、本当はここでも全部脱がせてしまいたかったが、そうはいかない事情がある。
ドレスの構造は複雑で、ルーク一人ですべて脱がせるのは難しいのだ。特にコルセットは背中側に編み上げた紐をほどくのすら一苦労である。第一、全部脱いでしまえばリエナも一人では着られない。かといって、側仕えの侍女を呼ぶわけにもいかない――もっともマーサであれば、顔色一つ変えずにリエナの身支度を整えてくれるだろうが、リエナが嫌がるのが目に見えている。かといって、あられもない姿で部屋の外に出るなど論外である。
着衣で抱くのも悪くないとルークは考えていた。口の端に満足げな笑みが浮かぶ。今夜はいわば成り行きでこうなったが、新たな境地を発見した気分だった。
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