旅路の果てに
第12章 7
ルークは半身を起こすと隣に横たわるリエナを見下ろした。じっと熱の籠った視線を全身にそそぐ。
豊かに広がるプラチナブロンドの髪、閉じた瞳を彩る長い睫毛。
ほのかな灯りのもとでしっとりとぬめるような光沢を放つ肌は、まだ余韻を残して淡く染まり、先程までの激しさを物語るかのように、豊かな乳房がゆるく上下している。
視線に気づいたのか、リエナの瞳が開かれた。恥ずかし気に、わずかに身をよじる。それでも以前よりは裸身を凝視されることに慣れたのか、こうしてルークの視線を感じてもすぐに身体を隠すようなことはせず、そのままでいてくれるようになっている。
「綺麗だ……」
ルークが心からの呟きを漏らした。いとおしむように、そっと肌の上に手をすべらせていく。リエナの唇から、溜め息交じりのかすかな喘ぎがこぼれ落ちる。わずかに汗ばんだ肌はしっとりとルークの手に馴染み、触れればまるで溶けてしまうかと思うほどに柔らかい。
もとから華奢なうえに、心労と病のせいで更に細くなっていた身体も、すこしずつふっくらとしてきている。
ほんの何気ない日常の仕草に、ふとこぼれるような色香を感じることも出てきた。リエナは自覚していないのだろうが、それだからこそ、ルークは突き上げる欲求を抑えきれないのだ。たまらず、まだ日の高い時刻だというのに、その場で抱き上げて寝室へ連れて行ったことすらある。
明るい陽射しの中でリエナは、恥じらいながらもいつもより乱れた。
以前であれば、ルークを拒むことはなくとも常に受け身だったのが、わずかではあるが、自分の方からも求めるような言葉を――もちろん、あからさまなものではないけれど――無意識のうちに投げかけていた。初めての出来事にルークは驚きつつも、うれしくないはずがない。より一層熱の籠った愛撫を繰り返したのだった。
「本当に、綺麗だ……」
ルークはリエナに身体を重ね、上から包み込むように抱きしめた。リエナも逞しい背中に腕を回してくる。ルークの唇がリエナのそれに重なる。抱きあいながら、優しいくちづけを幾度も繰り返した。
「ルーク」
リエナがルークに視線を向けてくる。
「どうした?」
「わたくしね……。幸せなの」
菫色の瞳に満ちるのは、穏やかな光。
「俺もだ」
「ずっと……こうしていたいわ。あなたのそばにいたい」
「ああ、絶対に離さない」
「……うれしい」
リエナはルークにすがりついた。ルークもそれに応え、もう何度目かわからないくちづけを落とす。
触れるだけのくちづけが、だんだんと深く熱くなっていく。まるで互いの存在を確かめるかのように、熱を帯びて絡みあい、溶けあった。
ようやく唇を離したルークが瞳を覗き込んだ。リエナは一つ瞬きをして、じっと見つめ返してきた。
夢の中で揺蕩うような、うるみを帯びた菫色の瞳。わずかに開かれた、濡れ濡れとした唇――そこにあるのは、無意識のうちに滲む、誘い。
――いつの間に、こんな表情をするようになったのか。
愛を交わすたび、リエナは美しくなっていく。
ルークはいくばくかの驚きとともに、深く満たされていくのを感じていた。
大輪の花――リエナは、艶やかに咲き誇る。そして咲かせたのは、他ならぬルーク自身の手。
ルークは手を伸ばし、無骨な指で、リエナの唇の端に触れた。
甘やかな溜め息とともに、濡れた唇がかすかに動く。
――もう一度、抱いて。
声にならない声。けれど、ルークの耳には、そう告げたようにしか聞こえなかった。
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