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旅路の果てに
第10章 5


 その夜、リエナの心づくしの夕食を堪能したルークは、食後のお茶を飲みながら暖炉の前でくつろいでいた。リエナも隣に座り、同じように茶碗を手にしている。

 二人の前には暖炉の火があかあかと熾っている。こうしてただ寄り添っているだけで、心地よく豊かな時間が流れていく。

 暖炉に火を入れる日々も、あとわずかで終わるだろう。

 春はもう、すぐそこまで来ている。

********

 夫婦水入らずの時間をゆったりと楽しんだ後、二人で湯を使った。一足先に上がって床の中で待っていたルークの隣に、リエナが横たわる。待ち切れないように、ルークがリエナを抱き寄せた。

 ルークがリエナを見つめた。深い青の瞳が、何かを訴えるような色を見せる。昨夜までとは違う瞳の色に、リエナはルークが何を求めているのかを悟っていた。菫色の瞳は、答えの代わりに一つ瞬きを返し、目を閉じて身体を預けた。

 ルークの唇がリエナのそれに触れた。

 やがて、耐え切れなくなったルークの手がリエナの寝間着の下にすべりこんだ。湯上りの肌はあたたかく、えもいわれぬほどに、かぐわしい。

 ルークはリエナを夢中で愛し始めていた。こうして触れ合うのは久しぶりなだけに、だんだんと自制が効かなくなっているのが自分でも分かる。

 リエナの方も、ルークの腕の中で予想以上の反応を見せていた。仕草の一つ一つが、ルークを否応なしに駆り立てていく。

 無理をさせてはいけないとわかってはいた。だがその躊躇いも、リエナの切なげな声を耳にした瞬間、あえなく崩れ去った。

 濃密な闇の中で、衣擦れと、互いの肌が触れ合う、しめった音だけがかすかに響いている。

 その闇の中に混じる、熱い吐息とともに囁かれる言葉。それに応える、甘い溜め息と、抑えきれない声。

 無我夢中のうちに、互いが互いの名前を呼ぶ。身も心も一つに解け合った。

 そして二人で迎える、至福の時。

 ルークが荒い息を吐きながら、リエナを見つめた。リエナも疲れを見せてはいても、表情は幸せに満ちている。うるみを帯びた菫色の瞳のなまめかしさに、ルークは再びリエナを抱きすくめた。

 愛おしくてたまらない。そのまま、何度も何度もくちづけを繰り返す。

 ようやく二人の唇が離れた。

 深い満足のうちに、しっかりと抱き合ったまま、眠りについた。




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