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旅路の果てに
第11章 14


 ルークの葬礼の儀から一月後、ローレシア第二王子アデルが正式に王太子となった。

 アデルの生母であるマーゴット王妃は笑いが止まらない。無論、対外的にはルークの喪中であるから殊勝な態度を崩さずにはいるが、人目を気にしなくてもよい場所では大っぴらに、実父のエルドリッジ公爵と喜びを分かち合う日々だった。

 アデルが公式行事で纏う衣装の制作も、更に力が入っていった。これまでは代行ということで、ルークとはわずかに差をつけざるを得なかったけれど、もうそんな気遣いも不要である。今までの鬱憤を晴らすかのように、衣装や宝飾品はもちろんのこと、アデルが自室で使う身の回りの品々の一つ一つにも贅を凝らしたものを次々と注文している。

 そんな母と祖父をよそに、アデル本人は淡々と公務に励んでいる。学び直していた帝王学もすべて修了した。以前は勉強を兼ねた補佐程度だった国政も、少しずつ自分に任される案件が増えてきている。王太子妃の選定も始まり、近い将来に妃を娶ることも決定している。

 既に覚悟は決めた。仮にルークがローレシアに戻ってきたとしても、王太子に返り咲くことは有り得ない。それどころか、いては困る人間になってしまっているのだから。

 ルークは死んだ。一人の人間としてはこの世界のどこかで生きているだろうが、ローレシアの王子としての生命は失われたのだ。

 王太子代行を任じられた時にあった迷いはもうない。




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