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旅路の果てに
第12章 6


 ルークとリエナが話合いを終えた翌日、二人は揃ってラビばあさんの家を訪ねていた。

 玄関先で出迎えてくれたばあさんは、リエナの表情を見て何かを悟ったらしく、穏やかな笑みを浮かべると、二人に家の中に入るよう促した。

「おばあちゃん。今日はお願いがあって来たの」

 ばあさんが淹れてくれた香草茶の前で、リエナが話を切り出した。

「わたくし達、こどもを持つことに決めました」

「ルークと話し合って決めたんじゃな?」

「ええ」

 頷くリエナの表情には気負ったところはない。

「そうだ。二人で話し合ってそう結論した」

「ですから、もし赤ちゃんを授かることができたら、その時にはまたお世話になると思います」

 リエナは真剣な表情で頭を下げた。ルークも姿勢を正してばあさんに向き合った。

「俺からもよろしく頼む。これからもリエナの力になってやって欲しい」

「わざわざそれを言いに来てくれたんか。律儀なことじゃの」

 ばあさんはそう言うと、香草茶を一口すすった。やや呆れたような言葉とは裏腹に、表情にはどこかしらほっとしたものが感じられる。

 ばあさんも二人の行く末を心配していたのだ。きちんと話し合って結論を出し、あらためて自分へ挨拶にまで来てくれた。恐らくはこう結論するだろうと予想はついていた。こうしてきちんとした意志表示を受けて、安堵の気持ちになると同時に、二人の覚悟――トランの村でこどもを持ち育てるということは、この地に骨を埋めるということに他ならない――をも見せられた思いだった。

「ようわかった。わしに任せておけ」

 ばあさんはしっかりと頷くと太鼓判を押した。ただ、王族の二人に頭を下げさせたことに対してだけは今も居心地の悪いものを感じているが、そこはこらえるしかない。

「ところで、エイミ達にもリエナちゃんが完治したことだけは話をしておこうと思うが、それで構わんか?」

「はい、よろしくお願いします。わたくしからもみなさんにお伝えしたいと思うけれど、おばあちゃんからも言っていただけたら……」

 昨年の冬にリエナが倒れたのは女達の集まりの場だった。その後もエイミをはじめ、村の女達には何かと手助けを受けている。もちろん二人は深く感謝し、その気持ちも都度伝えているが、治療をしていたばあさんから伝えてもらえばより安心するに違いないからである。

「わかった。みんなリエナちゃんを心配しとったからの、治ったといえばさぞかし喜ぶじゃろうて。ただ、まだ無理はせん方がいい。これまでと同じく、困ったことがあったら遠慮なく頼むんじゃよ」

「はい、そうします」

 リエナもほっとしたように頷いた。

********

 その後はいつも通りばあさんのお茶で楽しい時間を過ごした。夕刻、ばあさんはルークとリエナを玄関先で見送った後、寄り添って歩む二人の姿に、あらためて幸せを願わずにはいられなかったのである。




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