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旅路の果てに
第8章 8


 今夜のルークはまるで別人だった。

 いつもの優しさをかなぐり捨て、リエナにのしかかるように唇を塞ぐ。ブラウスに手を掛け、一気に剥ぎ取った。肌着に包まれた豊かな乳房がなかば露わになる。その輝くばかりの白さとなめらかさを目の当たりにして、ルークは我を忘れた。瞬く間に、いくつもの紅の花びらが散る。

 これまでルークは、自分の欲望を抑え続けてきた。原因は、あの秋の夜――リエナの裸身の美しさに眼を奪われたルークが、再びリエナを求め、結果として翌日に熱を出してしまった――二人の気持ちがすれ違うきっかけとなった出来事である。ルークはリエナに余計な負担をかけたと思い込んだ。リエナの方は否定したものの、それからのルークは、無意識のうちに自分の欲望を抑えつけるのが習慣になっていた。けれどリエナの体調は一向に改善せず、それがますますひどくなっていったのである。

 しかし、今のルークに自制する理由はない。これまで抑えに抑えてきたものが、一気に迸る。

 いつにない激しさだった。ルークの手や唇が触れるたび、リエナの肌は火がついたかのような熱を持っていく。あっという間に熱の渦に呑みこまれ、白い肌は薄紅に染まった。

 ルークはただ、想いのすべてを叩きつけ、自分の望むがままにリエナを求め、翻弄した。

――やっとわかった。わたくしはずっと、こうして愛されたかった……。ルークの想い、そのすべてをぶつけて欲しかった。今なら受けとめられる。わたくしもルークに、想いを返すことができる。……今なら!

 リエナの唇から、ひときわ高い声が上がった。しかし頂点を極めた次の刹那、またもや容赦なく、ルークの手で情欲の淵に叩き落とされる。

 いつ果てるともしれない繰り返しのなかで、リエナはルークの言葉が脳裏にこだまするのを聞いた。

――犠牲なんかじゃない。俺はお前が欲しかった。

 ルークの言葉が意味することを、ようやく理解できていた。

――これで、いいんだわ。わたくしは、ルークのそばにいればいい。

 互いが互いを、限りなく熱く、豊かなもので、深く満たしあう――心も、身体も。

 ずっと平行線をたどっていた二人の想いは、寄り添い、絡みあい、最後には一つに溶けあった。

 リエナはルークとともに迎えた歓喜の絶頂のなかで、ずっと罪深いと思っていた自分自身の存在そのものが許された、そう納得できたのだった。

 嵐のような時が過ぎ去ったあと、二人はしっかりと抱き合ったまま眠った。もう互いを隔てるものは何もない。


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 いつの間にか、この冬初めての雪が降り始めていた。




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