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旅路の果てに
第9章 6


「ムーンブルクも焦りが見えてきたのか」

 アーサーが呟いた。つい先ほど、ムーンブルクへ潜入させている密偵から新たな報告が届いたのである。内容はリエナ捜索についてで、今まで極秘裏に行われていた捜索をもっと大々的なものに変更するため、チャールズ卿が各国にある領事館へ通達を出したというものだった。

 ルークとリエナが出奔して3か月余り。ローレシアもムーンブルクも彼らの足跡の影すら見つけられていないことはアーサーも知っている。

 アーサーは今後も二人を見つけることはまず不可能だろうと考えている。見つかる可能性があったとすれば、出奔直後だけだった。もっとも、当然のことながらリエナが移動の呪文の痕跡を消せることをアーサーは知っていたし、ルークが覚悟の上で起こした行動である。そう簡単に見つかるような安易な方法を採るとは思えない。だから、もし出奔後に見つかったとしても、よほどの偶然に恵まれた以外にはあり得なかっただろうと考えている。

 実際、3か月経った今もなお、二人は見つかっていない。それどころか、誰一人として有力な情報すらつかめていないのだ。

 アーサー自身、もう二人はどこかに定住していると確信していた。それも、チャールズ卿らが血眼で探しているのとはまったく違う場所だろうと考えている。卿らは、王族が住むのにふさわしい場所を中心に探しているのだろうが、明らかに見当違いなのだ。根拠は、ルークとリエナは王族であるにもかかわらず、いざとなれば一般庶民と同じように暮らしていけるからである。

 これはともに旅をしたアーサーだけが断言できることだった。三人は旅の間、王族の身分を隠すために普通の旅人と同じ水準の生活をしてきたのだが、それどころか実際には、更に厳しかったと言う方が正しい。何しろ、一般の旅人ならまず足を踏み入れない危険な地域に行くことも多かった。そのため、宿に泊まることができる方がずっと少なく、野宿の連続だったのだ。どこの世界に、大国の王太子と深窓で育った王女がそんな生活に耐えられると思う者がいるだろうか。

 アーサーはふと思いついたことがあった。侍女を呼び、別室で読書をしているはずの妃のコレットに部屋に戻るよう、伝言を頼んだ。

********

 コレットが部屋に入ってきた。アーサーと婚儀を挙げて二年近く経った今、落ち着いた日々を送るコレットは、ますます美しくなっていた。

「アーサー様、お呼びと伺いましたが」

「コレット、君にちょっと聞いてみたいことがあってね。しばらくつきあってくれるかい?」

「もちろんですわ。でも、お答えできるかどうかまでは保証いたしかねますわよ」

 コレットは軽やかな声で笑った。アーサーは時々、とんでもない話題での議論を吹っかけてくることがある。単に知識だけでなく、機知も求められるのだ。そんな話し相手を務められる女性はコレットだけだった。そういう点でも得難い伴侶だとアーサーは感謝しているのである。

「じゃあ、聞くよ。コレット、君は僕がルークとリエナと一緒に旅をしている間、普通の旅人と同じ生活をしていたことは知っているね」

「ええ、承知しておりますわ。大変な旅だったと伺いましたもの」

「じゃあ、君なら、具体的にはどんな生活を想像する? 特にリエナについて聞かせてほしい」

 コレットはちょっと驚いたような様子を見せた。夫の突然や質問や議論には慣れているはずだけれど、今回は特に予想もできない展開だったからである。

 けれど、何故突然アーサーがこんな質問を投げかけたのかはわかる。先程まで密偵が定期報告に来ていたのだ。恐らくその時、ルークとリエナの行方についても何らかの情報がもたらされたか、もしくは今回も何もなかった――おそらく後者だろうと推測したのだ。

「そうですわね」

 コレットは真剣な表情で考え始めた。アーサーは無言でコレットの返事を待っている。やがてコレットが息をついた。理知的に輝く榛色の瞳には、すこしばかり困ったような訴えるようなそんな色が浮かんでいる。

「アーサー様」

「答えは見つかったかな?」

「それが……、残念ですけれど、うまく想像できませんの。頭では理解していたつもりでしたのに」

 アーサーは頷いた。コレットにとっては意外なことに、そこには満足げな表情が浮かんでいるのである。

「……今の答えでよろしかったの?」

「予想通りの答えだったよ」

 アーサーは説明を始めた。

「君もサマルトリアの公爵家の出身だ。当然、生まれた時から乳母と侍女に囲まれて生活をしてきた。着替え一つにしたって、自分でしたことはないよね。趣味でお茶を淹れることはあっても厨房に入ることはないし、裁縫というものは、楽しみのための刺繍や飾り物をつくることだ」

「ええ、その通りですわ」

 コレットにとっては、あまりに当たり前すぎる事実である。何故アーサーがこんなことを言うのか一瞬わからなかったが、そこは聡明なコレットである。すぐにアーサーの真意を理解していた。

「……あ、わかりましたわ」

「どうわかったのか、聞かせてくれるかな」

 コレットは軽く頷くと、言葉を選びつつ説明を始めた。

「リエナ様は、側仕えの侍女を連れてはいらっしゃらなかった。ですからご自分の身の回りのことはすべてご自分でなさるしかなかったのですわね。ということは、身支度も一人で整えなくてはなりませんし、確か、お料理もなさったとか」

「間違ってはいないけど、まだ満点にはほど遠い」

 コレットは胸に手を当ててちいさく溜め息をついた。自分では精一杯の答えなのだが、やはり難しいのである。

「どこが足らないのか、お教え願えます?」

「たとえば身支度一つでも、単に着替えたり髪を梳かしたりするだけじゃないんだ。着替える服も自分で準備しなくてはならない。それも、いつも洗濯済みの衣類が荷物に入っているわけじゃない。ということは?」

「リエナ様は、ご自分の衣服をご自分で洗ったのですか? ――言われてみれば当然ですわね。でも私、全然思いつきませんでした」

「料理だってそうだよ。作るためには材料を調達しなくてはいけない。まあ買い物は三人で手分けして、重いものはルークと僕とで持ったけどね。でも、いつも町で買えるわけじゃない……」

 そこまで話して、アーサーはコレットが話の内容についてこれていないのに気づいた。

「ごめんごめん、町で買うっていうのも君にはわからないよね。だって、ここでも公爵家でも必要なものは召し使いが注文して届けてもらう物だから。君が自分で欲しいと思って注文してもらうものは、せいぜい書物や筆記具といった趣味の品だろう? その時には出入りの商人がたくさん商品を持ち込むから、君はそこから好きなものを選ぶだけでいい。新しいドレスや靴は季節ごとに誂えると決まっているから、何もしなくても仕立て屋が最新流行の意匠画と生地を持って機嫌伺いにやって来る。とりあえずは、支払いのことも気にする必要はないしね――もっとも君は、一切浪費しない人だけど」

 アーサーの言う通りだった。コレットにとって、生活に必要なものはわざわざ命じるまでもなく、いつでも用意されているものである。当然のことながら、品物の管理は召し使いの仕事であり、その品をどこから調達するのか、手入れの方法などについては、知識として知っておけばよいだけで、実際にする必要などないのだ。

 王太子妃であるコレットの役割はもっと別のところにある。例えば、各国の王侯貴族との社交のために様々な贈り物を用意し、それに添える手紙を書く。何を贈るのかどんな手紙を書くのかも、目的によって細かな決まり事がある。決まりを守った上で場に相応しく美しい遣り取りをしなくてはならない。

 女性だけの集まりの時には自ら采配を振るう。数ある客間の中から客人の身分と人数に応じて部屋を選び、季節や催しの目的に合わせて設えを考え、侍女らを指揮して入念に準備する必要がある。お茶会一つにしても、滞りなく終了させるには相当な教養と感性が必要とされるのだ。

 こういった奥向きの采配の一切を取り仕切るのが王族女性の仕事である。これらを如何にこなしていくかで、コレットの王太子妃――言わば女主人としての評価が決まる。今はアーサーの母である王妃が先頭に立って行い、コレットがその補佐をするのが役割であるが、いずれは引き継ぐことになるのだ。

 それ以外にも、舞踏会や夜会などの公式の席では、美しく装ってアーサーとともに招待客の前に出るのも重要な役目である。王太子妃があまりに質素な装いではサマルトリアの沽券に関わるし、かといって華美になり過ぎるのも良くない。客人の挨拶を受け、宮廷作法を駆使して機知に富んだ会話もしなくてはならない。

 無論、国家全体での予算管理などにも無関心でいるわけにはいかない。こういった表向きの仕事は重臣達の仕事である。しかし、自国の経済状況を把握するのは王族の義務である。コレットはその方面の知識もあり、時にはアーサーとともに会計報告を聞くこともあった。

 このように、王侯貴族の生活は一般庶民とはあまりにもかけ離れている。ただ、コレットも民の上に立つものとして、彼らが実際にどう生活しているかの教育は受けている。けれどあくまで知識にとどまっていたし、アーサーが質問した旅の生活になるとまた違ってくるから、お手上げ状態なのは致し方ないだろう。

 おまけにコレットは、今まで一度しかサマルトリアの城下町に出たことがない。しかもその一度は自分の婚儀の時で、民への御披露目のために馬車で町を一周しただけだったのである。

 これが男なら、時にはお忍びで城下町に繰り出すこともあるだろうが、女性にはあまりあることではない。特にコレットの場合、まだ幼い年齢でアーサーとの婚約が内定したから、周りから後ろ指をさされるような行為はご法度だった。他の貴族の令嬢よりもさらに厳しい教育を受け、お忍びなど絶対に許されない環境だったのである。特にアーサーが旅に出てからは、彼がサマルトリア城に帰国した時のみ、護衛兵に厳重に守られて城を訪れるだけだった。それ以外は一切外出せず、様々な危険を防ぐために公爵家の本邸から一歩も出ない日を送っていたのだ。

 アーサーは説明を再開した。

「君が言った通り、リエナは料理もしていた。ルークも僕もまったくできなくて、それはひどい食生活を送っていたんだ。彼女が見かねて見よう見まねで始めたんだけど、才能があったみたいだね。あっという間に上達したよ」

 アーサーは笑顔になった。今更ながら、リエナの料理のおかげでどれだけルークと自分が助かったか身に沁みたのである。

「料理するためには、火を熾す必要がある。薪を集めて、火をつける。水も川が近くにあれば汲んできてそれを使う。無事に料理ができあがって食事が終わったら、今度は片付けなければいけない」

 コレットは目を丸くしていた。今までこんな具体的な話を聞いたことがなかったからだ。けれどアーサーの説明を聞けば聞くほど、彼らの旅の生活、ひいては庶民の生活が如何に自分とはかけ離れたものかと痛感する。

「アーサー様」

「うん?」

「一つ伺ってもよろしいでしょうか」

「もちろん、何でも聞いてくれていいよ」

「野宿の時に夜休むには、どのようにするのでしょうか」

「ああ、それなら、地面に寝っ転がるんだよ」

「あの……地面に、ですの?」

「そう。直接、土の上っていうのが正しいかな。一応、毛布だけはあるけどね。毛布一枚を身体に巻いて、自分の荷物が入った鞄を枕代わりに横になるんだ。間違っても寝台と羽布団は持っていけないから、そうするしか方法がない」

「しつこくて申し訳ないのですが、リエナ様も同じですの?」

「そうだよ。ただ、リエナだけは毛布を二枚使っていたけどね。下に一枚敷いて、上掛けにもう一枚。そういえば、よく自分だけ二枚で申し訳ないって言ってたっけ」

 アーサーはごく自然に答えた。反対にコレットはどこか呆然としている。答えは最初からわかっていても、あまりに自分の常識とはかけ離れていてすぐには頭に入ってこない――正確には、説明を受けてもどういう状況になっているのか、映像として浮かんでこないのである。

「君がそんな顔をするとはね」

 アーサーがおかしそうに笑った。普段のコレットならまずしない表情だからだ。同時にアーサーのこういった笑顔も、コレット以外の誰も見たことのないものである。

「もう……恥ずかしいところを見せてしまいましたわ」

 すこしばかり頬を赤らめたコレットを、アーサーは純粋に可愛いと思った。

「色々と答えてくれてありがとう。参考になったよ」

「あの……、こんなことでよろしかったの? だって私、きちんとした答えは一度もできませんでしたのに」

「それが当たり前だよ。公爵家出身の王太子妃が、野宿の様子を簡単に思い浮かべられる方がどうかしている」

 アーサーは再び笑いを漏らした。

「だから、僕がいちばん驚いたのはね。リエナは一度たりとも、旅の生活の不満を口にしなかったことだ。自分のことを自分でするのも、料理や洗濯も、野宿で地面に寝ることもだ。野宿のときなんて、ルークと僕のすぐ近くで眠らないといけないんだよ。王女が若い男に寝姿を晒さなくてはならない。普通なら決して許されることじゃない。でも、安全のためにはそうするしかないんだ。リエナだって最初は君みたいに考えたと思う。それでも、わがまま一つ言わなかった。むしろ、自分でできそうなことはやりたいって言って、実際にもそれを実行した。料理もその一つだよ。余程の覚悟を決めたんだと、ルークとは何度も話し合った記憶がある」

 不思議なことに、アーサーは説明している間、笑顔を絶やさないのだ。時には懐かしげな表情すら混じる。それが何故なのか気になったコレットは、思い切ってアーサーに聞いてみることにした。

「あの、アーサー様」

「質問なら遠慮なくどうぞ」

「こういったお話を伺っていると、私などが予想もできないほどに過酷な旅だったことが、とてもよくわかりましたわ。でも、お話してくださる時のアーサー様は、その……楽しそうなのですわ。私、それを不思議に感じてしまって」

 これを聞いて、アーサーの表情が更に柔らかくなった。

「君の言う通りだ。確かに、旅そのものは過酷だし、他にもつらいことの連続だった。でもね、同時に得難い体験だったことも確かなんだ」

「得難い、体験……」

「そう。普通では有り得ないけれど、楽しいこともあったんだよ。色々な土地でたくさんの人と出会ったし、陸路だけでなく船旅もしてロト三国にはない景色も見られた。各地の名物料理も味わえるなんていうのも、なかなかないことだしね。――何より貴重だったのが、ルークとリエナと築くことができた友情、かな」

「……友情、私にもわかる気がしますわ」

 そうは言ったものの、コレットはどこか寂しげな表情になった。アーサーにはもちろんその理由がわかっている。

「今の話、君には疎外感を感じさせた……すまない」

 コレットはちいさくかぶりを振った。

「いいえ、あなたに謝っていただくことではありませんわ。あなたがおっしゃる通り、みなさまがかけがえのないご友人であるのは、わかっていたはずですのに。どうしても、そう感じてしまうことが自分でも情けなくて……」

「コレット、自分を責める必要はないんだ。むしろ、君のように感じるのが当然だ。夫が自分の知らないところで様々な体験をして友情を築いたなんて、我慢できないと怒る方が普通だからね」

 コレットはすこしだけ心が軽くなっていた。アーサーは自分の気持ちを理解してくれている。同時に、自分がアーサーを理解しようとしているからこそ、敢えてここまで話してくれているのだとわかるからだ。

「でもね、君に対する想いと、彼ら二人に対する感情はまったく別のものだ。僕にとって君は、かけがえのない、ただ一人の女性だ。それだけは忘れないでほしい」

「アーサー様……」

 コレットはじっとアーサーを見つめた。何よりもうれしい言葉だった。けれどまだ、心の奥底にはわだかまりが残ってしまっている。アーサーはコレットがまだ言いたいことがあるのを察して、無言で続きを促した。

「私、今までも何度もあなたから旅のお話を伺いましたわ。それで、リエナ様のご苦労をすこしは理解していたつもりでしたの。でも、思い違いでしたわね。私は安全な場所で守られていましたのに」

 アーサーの表情は真剣な、それでいてあたたかいものに変わっていた。

「君がすべてを理解できないのは当然だ。それを気に病む必要なんてないんだ。リエナが置かれた境遇がそれほどに異常だったからね」

 コレットも真剣な表情で、アーサーの言葉に聞き入っている。

「リエナは自ら志願してハーゴン討伐の旅に出た。それは、最後の王族の義務として、ムーンブルクを復興するためだ。君とは最初から立場が違うんだ」

 コレットは言葉を失っていた。思わずうつむくと、手をぎゅっと握りしめる。

「コレット」

 そう呼ぶアーサーの声は、限りなく優しかった。コレットはようやく頭を上げた。瞳にはわずかに涙が滲んでいる。

「アーサー様、私……」

 アーサーはわかっているというふうに頷いた。

「無理に何かを言う必要なんてないんだよ。さっきも言った通り、リエナの境遇があまりにも特殊なだけなんだ」

 アーサーはコレットをそっと抱き寄せると、指で涙を拭った。

「それにね、僕自身、君と旅をしたいと思ったことはない。もし、君が戦う術を持っていたとしても」

 コレットははっとして、アーサーを見つめた。自分が言いたかったこと――アーサーと旅ができなかったことを、どこか負い目に感じていることを、代弁してくれたのだ。

「リエナの旅立ちだって最初は猛反対されたよ。ローレシアの陛下も、ルーク自身もね。でも、リエナはたった一人残された王族の義務だと言い切った。僕たちは彼女の決意の固さに納得せざるを得なかったんだ。だから、ルークも僕も、同じロトの血を引くものとして一緒に旅に出た。ルークが旅立った理由の一つは、リエナを自分で守ること。あいつは最初からリエナを愛していたからね。ルークだってリエナを旅立たせたくなかった。でもそれができないから、自分も同行したんだ。そのせいか、旅の間は無茶ばかりしていたよ。僕の言うことなんて耳を貸さないんだ。とにかくリエナに傷を負わせたくなくて、自分が盾になり続けた」

 ルークのリエナへの想いの強さに、コレットは何も言えなくなっていた。

「誰が好き好んで、愛する女性を死地に追いやると思う? 僕だってルークと同じだ。君を傷つけるようなことだけは絶対にしたくなかった」

「ですけれど……私は待つことしかできませんでしたわ」

 ようやくそれだけを口にしたコレットにアーサーは優しい笑みを向けた。

「僕がそれを望んだんだよ」

 コレットを腕に抱いたまま、アーサーは話し続ける。

「生きて帰れる保証がない、どれだけ期間がかかるかもわからない。僕の婚約者として待つと決めた以上、他の男に嫁ぐことも許されない。今どこで何をしているのか、たまに送る僕からの手紙以外に知る術がない。おまけに、君は僕の旅の間、公爵邸から一歩も出なかった。そういう状態で、ひたすら待つしかないのに、君も何一つ不平も不満も言わなかった。ごくたまに僕が帰った時にも、変わらない笑顔で迎えてくれた――それが僕にとって、どれだけ救いだったか。僕は君のもとに絶対に生きて帰ると決めていた。だから、最後まで戦ってこれたんだ」

 アーサーはコレットを見つめ、真剣な眼差しで告げた。

「サマルトリアで僕を待つことが君の役割だった。コレット、君は、立派に役割を果たしてくれたんだよ」

「アーサー様……」

 榛色の瞳から涙があふれた。アーサーはコレットが泣き止むまでずっと、腕に抱いていた。




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